すっぽんさんのBLOG

本の感想を中心にした、趣味のブログです。

「道徳感情はなぜ人を誤らせるのか」  管賀 江留郎 著

 

 

「多数派である凡人の能力には、そうでなければならない必然があるのだ。目の前の現実をありのままに受け止められない凡人が正しく、天才のほうが人間として間違っているのである。この人間の本性こそが、ときに恐ろしい結果を招いてしまう事にもなるのだが。」

 

 

 最高裁で死刑が確定していながら、2014年に被告が釈放された「袴田事件」について、ニュースなどで多く取り上げられたので、記憶にある方も多いかと思います。冤罪である事が濃厚である、袴田巌元被告は、いわれの無い罪のために45年もの間、東京拘置所に収監されていました。

 

 「幸浦事件」、「二俣事件」、「小島事件」、「島田事件」、「丸正事件」、「袴田事件」と、静岡県では数々の冤罪事件が起こっています。これらの事件には、紅林麻雄という刑事が関係しており、そして、これらすべての事の発端に「浜松事件」があることを著者は指摘します。

 

 この本は、冤罪事件を中心に取り上げながらも、冤罪事件を引き起こし、「拷問王」といわれるようになる紅林麻雄一人を断罪する訳では無く、そもそも我々はなぜこのような過ちを犯してしまうのかを追求していきます。冒頭で引用した恐ろしい言葉が示すように、ここで過ちを犯すのは、いわゆる「悪人」では無く、一般の「道徳的」な人々なのです。

 

 それぞれの冤罪事件について以外にも、冤罪事件と闘った人物の悲しい人生、ようやく無罪を認められた被告へのあんまりな仕打ち、「道徳的」なチスイコウモリの話、無実でありながら自白してしまう人の心理、等々、興味深い話が多く載せられています。500ページほどに渡る分厚い本にしては、意外に読みやすいと思いますし、是非一度手に取ってみて欲しいと思います。