すっぽんさんのBLOG

本の感想を中心にした、趣味のブログです。

「わたしが・棄てた・女」  遠藤周作 著

 

 遠藤周作の作品は、「海と毒薬」のようなシリアスで、重苦しい雰囲気のものから、軽妙なエッセイまで、幅広いものがあります。その中で、この小説は、軽い文体で書かれた読みやすいものですが、内容は重くて、深い悲しみを感じさせるものになっています。

 

 戦後間もない頃を舞台に、貧しい大学生である主人公「吉岡努」は、「女の子がほしいなら、どんな女の子でもいいじゃないか」と思い、「森田ミツ」と付き合い始める。好きでも無く、魅力も感じない相手を冷たくあしらう主人公と、純粋に喜び、渾身的に接する彼女。やがて主人公は彼女を「犬ころのように棄てて」しまいますが、心の中で彼女の存在が、大きく、忘れられない存在へとなっていく。

「理想の女というものが現代にあるとは誰も信じないが、ぼくは今あの女を聖女だと思っている・・・。」

 

 

 

 子供の頃ドリフのコントで、入院して落ち込んでいる友人に、もっと酷い目に遭っている患者を見せることで励ます。と言うのを見た覚えがあります。子供の時、そんな事で元気になったりするかなあ、と思いましたが、確かに、不幸な登場人物が登場する小説を読むと、却って気持ちが楽になる時があります。嫌な話だと思われますでしょうか。

 特に学生の時などは、嫌なことがあると、まるで世界一不幸な人間になったような、どん底の気分になることがありました。今から考えると、多分、下らない事なんでしょう。小説は、自分の悩みや考え方が、この世の中でちっぽけなものであると気付かせてくれました。

 そんな学生時代に読んだこの小説は、自分の中で、特に思い出に残った小説の一つです。今、もう一度、読み返してみていますが、あの時のように、登場人物の「森田ミツ」に激しく共感する事は無いだろうと思います。もしかしたら、読み返したりせずに、思い出の中で、大切にしまっておいた方が良いのかもしれません・・・。